建築家・安藤忠雄の穏やかで静かな建築作品
現在、最も影響力のある建築家の1人である安藤忠雄。ミニマルスタイルと穏やかさを特徴とした建築により、世界的に有名です。独創的なプロジェクトから生まれた壮大な建物からは、安藤が特別な建築家であることが見受けられます。
彼の故郷である大阪では、多くの作品が生み出されました。安藤忠雄および彼の創造力や創作能力について話すときに最も驚かされることの1つは、建築の専門教育を受けていないことです。
建築家になる前は、ボクシングなどさまざまなことに挑戦しました。そんな彼が建築家になろうと決めたのは、有名なフランク・ロイド・ライトによってデザインされた帝国ホテル東京を訪れたときです。
前述のように、安藤忠雄は建築の学校に通うことはなく、独学で建築について学びました。中古の建築本を買い、夜には製図のクラスを受けて、遠くからインテリアデザインについて学びました。その後、世界中を放浪し、素晴らしい建築を見て回りました。
建築が主張しすぎることはありません。静かさを保ち、光と風にまかせるべきです。
-安藤忠雄
人生と仕事
1941年大阪生まれ。若いころには、プロボクサーとして活躍していましたが、建築の道に進むと決めてからはボクシングを引退しました。その後、読書と生涯にわたる旅を通して建築についての知識を得ます。
アフリカ、ヨーロッパ、アメリカなどの世界中の国々に何度も足を運び、建築を見て回りました。また、日本の伝統建築についても学びました。1968年、日本に帰国してからは、自身の故郷である大阪に安藤忠雄建築研究所を設立します。
1976年、安藤にとっての転機が訪れました。「住吉の長屋」が評価されて日本建築学会賞を受賞したため、世界中から注目されるようになったのです。
日本の影響
この家は安藤の建築スタイルを表しており、シンプルで静かなデザインに仕上がっています。大きさはたった65平米ですが、美しく空間を分配することに成功しました。さらに、日本の伝統的な建築概念である、中庭と屋内間が1つとなるようにデザインされています。
その後、神戸に六甲の集合住宅が作られました。この建築のおかげで、世界で活躍する建築家として認められるようになりました。さらに、東京大学、米イェール大学、米ハーバード大学、米コロンビア大学などにの大学に客員教授として招かれました。
安藤忠雄は、自身の建築は日本の伝統建築とモダニズム建築のどちらの影響からも受けていると言います。日本の伝統建築については、幼少期を過ごした大阪近郊の家や伝統的な寺院からインスピレーションを得ています。
モダニズム建築については、ル・コルビュジエ、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ、ルイス・I・カーンを参考にしています。安藤の作品では、ブルータリズムとミニマリズムの強い影響を見ることができます。
安藤忠雄の穏やかな建築作品
安藤忠雄は、モダニズムの形や素材を美しく心地よい日本の伝統と組み合わせています。建物と周囲の自然は完全に調和し、素晴らしい景観を生み出します。
また、素材を自然の状態で使うことを好んでおり、型枠の跡が見えるコンクリート打ちっぱなしがよく使われています。
控えめで無駄のないデザインは、現代の唯物論に反していると言えるでしょう。現代的な素材を使って不必要な飾りを用いらないことで、シンプルさを保っているのです。
さらに、安藤は自然を愛しています。光や水を使って、建物を表現豊かにします。その功績により、1995年にプリツカー賞を受賞しました。
風の教会(神戸)
六甲山上にあるこの教会は主に結婚式に使われており、大阪湾を見渡すことができるプライベートな場所です。
このプロジェクトでも同様に、安藤の基本理念を見ることができます。シンプルな形状、光と影の組み合わせ、そして金属とガラスとともにコンクリート打ちっぱなしが使われています。この作品は直射光と間接光の研究により生み出されました。
この教会には、西洋の教会によく見られる鐘塔があります。この垂直な鐘塔により、建物の水平性を壊そうとしたのです。
光の教会(茨木)
茨木にあるこの小さな教会は、安藤忠雄の作品の中で最も象徴的な建築の1つとなりました。
光の教会は、自然をすぐそこに感じることができる素晴らしい枠組みとなっています。また、光を閉じ込めてメインホールに入れたかのような構造であり、光が重要な役割を果たしています。
1989年に建てられ、すぐに以前のカトリック教会に取って代わりました。光の教会は、満と空、明と暗、動と静のコントラストによって生み出されています。
屋内は、小さな隙間から光が入ってきます。一見窓のようにも見えますが、実際は建物の構造の1部です。祭壇のすぐ後ろには、十字架の形をした隙間があります。十字架から入ってくる自然光は、建物全体に空想的な印象を与えます。
無駄のないシンプルなデザインであるこの教会は、他の教会とは全く異なっています。たくさんの飾りがあった元の教会から完全なる変身を遂げました。
水の教会(北海道)
北海道のトマムにある水の教会。この教会でもまた、シンプルさ、物質性、穏やかさの基本理念が適用されています。
この教会では、建物と自然の間にほぼ完全な繋がりが築かれています。水の教会は、安藤の建築の中で最も成功した建築の1つであり、聖と俗、虚空と無限の概念を組み合わされていると言えるでしょう。
教会の構成は、2つの交差から成り立っています。各辺15メートルの正方形のプリズムと各辺10メートルの立方体の角同士を繋ぎ、各辺5メートルの立方体を作ります。
教会の目の前には、45×90メートルの長方形の池が広がります。さらに、各15メートルになるように4つに分割し、視覚的な囲いを作り出しています。これで、訪れた人々は物理的ではなく視覚的に自然と接触できるように感じることができます。自然の繋がりが完璧な教会なのです。
平穏さのイメージ
このように、安藤忠雄の建築は穏やかなだけでなく、崇高でもあります。また、自然が大きな役割を果たしています。
安藤忠雄は、今日の騒がしい世界においても静かで崇高な建築を作ることができると信じているのです。
ある場所に、単に何か新しいものを置くことは出来ません。周囲の環境を吸収して、知識と現代的な思考を持って見えているものを理解する必要があります。
-安藤忠雄